極上御曹司に求愛されています
腕時計を見ると二十二時だ。
早く帰らなければ、明日の朝がつらい。
「でも、本当にお肉もお酒もおいしいんです。この間悠生さんにごちそうしてもらった料亭といい、最近、私には縁遠いお料理を食べる機会が多くて幸せです。……あ、悠生さん、なにかあったんですか?」
芹花はふと思い出したように問いかけた。
『いや、楓と芹花のことを話して、芹花の声が聞きたくなってかけたんだけど、そんなことはどうでもいいんだ。で、今もまだその橋口っていう男と一緒なのか?』
「え? そうですよ。三井先生も一緒です。さっき新しいワインを持ってきてもらったのでもうしばらく飲みそうですけど」
『は? 明日も仕事じゃないのか?』
「もちろん仕事です。でも、楓さんに会えた余韻を楽しみながら飲んでる二人、なかなかかわいいんです」
『楓のファンなのか。一流モデルになるとは思ってたけど、こんなに早く有名になるとは思わなかったな。ずっと会ってなかったし、電話も三年ぶりか』
悠生が楓と長く連絡を取りあっていなかったと知って、芹花は詰めていた息を吐き出した。
「楓さんと、つき合っていたんですよね」
どうしてそんな質問をするのか、芹花は自分でも驚いたが、やはり楓のことが気になる。
悠生が彼女のことをどう思っていたのか、聞きたいような聞きたくないような、自分でもよくわからない感情が溢れた。
『ああ。短い間だったけど、付き合っていたんだ。この間は言わなくて、ごめん。楓はプライベートをあまり公にしてないから、言いたくなかったんだ』
悠生は心苦しそうにそう言って、「ごめん」ともう一度謝った。
「いえ、気にしないでください。悠生さんだってマスコミに追いかけられることもあるし、楓さんの気持ちがわかるんですよね。あ、昔からあんなにキレイだったんですか?」
『昔っていっても、初めて会った時にはもうモデルの仕事をしていたから、もちろんキレイだった。一緒に歩けば誰からも二度見されるくらい目立ってたし』
悠生は芹花が知らない過去を懐かしむように答えた。
その声は優しく、楓を今でも気にかけているとわかる。