極上御曹司に求愛されています
付き合っていたのだから、それは当然だろう。
アマザンホテルで再会した二人は、懐かし気な笑顔を浮かべ、明るく言葉を交わしていた。
決して互いを憎み合って別れたのではなく、何か事情があったのかもしれない。
ぞの事情が気になるが、聞けそうもない。
悠生との距離は日に日に近づいているし、キスもしたが、悠生と付き合っているわけではない芹花に、聞く権利はないのだ。
そう、自分は悠生にとって恋人でもなんでもない、単なる友人。
芹花はスマホを握りしめたまま、自分の立場の曖昧さに愕然とする。
今日、楓に会ってからずっと、いや、それよりもっと前。
アマザンホテルで初めて楓と顔を合わせてからずっと感じていた痛みが、芹花の体中に広がっていく。
気づかない振りをして、なにも考えないよう気を張っていたが、事実を受け入れれば苦しみや痛みが体を浸潤するのはあっという間だった。
芹花は座ったまま体を丸め、広がる痛みをやり過ごす。
胸の痛みの理由はただひとつ。
悠生のことが、好きなのだ。
『芹花? どうした? 飲み過ぎて眠いんじゃないか? 楓ファンの二人は放っておいてとっとと帰れよ』
芹花を心配する声が耳に心地いい。
そして、苦しい。
「はい。なるべく早く帰るようにします」
苦しい気持ちを隠しながら、芹花はそう言って笑った。
『なあ、その同期の橋口君だったか? 帰りはそのオトコが芹花を送るのか?』
「いえ、三井先生が私と橋口君をタクシーで送ってくれるそうなんです。ちょうど帰り道なので良かったです」
『そうか。だったらいいけど』
スマホの向こうで悠生がホッと息をついたのを感じ、芹花は複雑な気持ちになる。
会えば絶えず恋人同士のような距離で過ごし、優しいだけじゃない甘い言葉を幾つも口にする。
おまけに芹花を抱きしめキスを落とす。
そして今も芹花を心配している。
愛されていると、芹花が誤解しても仕方がないのだ。