極上御曹司に求愛されています
芹花はプレゼントされた包みを見つめながら、試験に合格した喜びをかみしめた。
所長が芹花の絵を気に入ったことがきっかけで有名弁護士事務所に就職したが、事務所の同僚たちの優秀さや自分の知識のなさを自覚するたび情けない思いをしてきた。
同時にひたすら絵を描いてきたこれまでに疑問を持つようになった。
妹の杏実がピアノのコンクールで賞を獲るたび、両親は杏実の才能に歓喜し期待した。
その姿を見るたび、芹花は取り残されたような気がしていた。
そして、自分は絵で賞を獲って両親に誉めてもらおうと、思いつめるようになったのだ。
高校卒業までに何度か大きな賞を獲ったことも、芹花を絵の世界に没頭させる理由となり、芹花は杏実への羨ましさを忘れるように絵を描き続けた。
そして、美大に入学したのだが、それまでの実績などなんの役にも立たなかった。
全国から実力者が集まり、その中には賞を獲ることにまったく興味のない者も多く、芹花を驚かせた。
ただ単に絵を描きたい、その思いだけで大学に通う者の熱意に芹花が敵うわけもなく、入学早々自分の才能のなさに愕然とした。
それでも、絵を描くのをやめるということは、ピアノの才能をどんどん開花させる杏実に負けてしまうということだ。
芹花は両親に認めてもらいたい一心で絵を描き続けた。
絵を描いていれば嫌なことを忘れることができたし、描いた絵を誉められることでしか自分の存在を周りに知ってもらえないと思っていた。
だからこそ寝食を忘れたかのように絵を描いてきたのだが、それによって犠牲にしたものも多かったのだと、仕事を始めてようやく気づいた。
弁護士たちのサポートも芹花の業務のひとつなのだが、仕事を始めたばかりの頃は出張先の地名を聞いてもよくわからないし、何を頼まれても、どこから手をつけていいのかちんぷんかんぷんだった。
パソコンに向かっても、絵を描くソフト以外使う機会がほとんどなかったせいか、議事録ひとつ作ることができなかった。
そんな芹花の様子を見た弁護士たちをはじめ同僚たちは、彼女のメインの担当はHPのイラストを描くことだからと何も言わず見守っていたのだが、そのことも芹花を傷つけた。
絵を描く以外のことを何も期待されていないことに申し訳なさを感じ、生まれて初めて絵以外のことをもっと知りたいと思うようになった。
その時、芹花はようやく杏実への妬ましさと両親への期待、絵を描くことでしか生きられないという呪縛から解放されたのだ。