極上御曹司に求愛されています
その頃、事務所の書庫でたまたま見つけたのが宅建の資格試験の参考書だった。
五センチ以上の厚みがあるその参考書はカラフルな色づかいでイラストも多く、読みやすかった。
試しに家に持ち帰り読み始めたのだが、事務所で耳にする法律用語を見つけるたび、自分は法律事務所で働いているのだという意識が強まった。
司法試験で勉強しなければならない量に比べれば学ぶ法律の量は少ないが、法律初心者の芹花がまず初めに勉強するには挑戦しがいのある資格だ。
もちろん難しい試験であり投げ出したいと思ったことも一度や二度ではなかったが、根が真面目な芹花は勉強を続け、合格することができたのだ。
わからないことは手のあいている弁護士を探して教えてもらいながら勉強を続けること一年と少し。
資格取得を目標として勉強を続けてきたが、晴れて合格することができた。
決して今の仕事が嫌で転職目的の資格取得ではない。
絵が自分のすべてではないことの証明が第一で、そして単なる好奇心。
これまで目を向けなかったものへの探求心だ。
働き始めてから肩身が狭い思いをすることが多かった芹花だが、今では事務所の誰からも転職を止められるほど頼りにされている。
「もしかしたら、私ってこの事務所で必要とされてるのかな?」
芹花は足早に去る二宮の後ろ姿を見ながら、驚いたように呟いた。