極上御曹司に求愛されています
第六章
悠生の部屋でひと晩を過ごした翌朝、芹花は悠生が運転する車で自宅に戻った。
二日続けて同じ服で出勤する勇気がなかったのだ。
仕事がたてこんでいるという悠生は、芹花の部屋に立ち寄る余裕も、念願の「月」のパンケーキを食べることもなく、名残惜しそうに職場へと向かった。
芹花もようやく気持ちが通じ合い、少しでも長く悠生と一緒にいたかったが、悠生同様仕事が忙しく、次はいつ会えるのだろうかと寂しさを感じながら見送った。
普段より少し遅れて出勤した芹花に、彼女の席で待ち構えていた橋口が駆け寄ってきた。
「え、どうしたの? 私、遅刻じゃないよね」
「ああ、それは大丈夫。あのさ、今出版社から電話があって、イラスト集の重版が決まったらしいぞ」
早口でそう言った橋口は、芹花の肩をポンと叩き「良かったな」と笑顔を見せた。
「早く伝えたくて待ってたんだ」
「本当? でも、発売までまだ十日以上あるのに、そんなこと決めて大丈夫なのかな」
芹花は机に鞄を置くと、マフラーを外しコートを脱いだ。
「予約がかなり入ってるっていうのは聞いてたけど、重版するって、出版社も強気だね。ん? 橋口くん、どうかした?」
橋口が困ったような表情で芹花を見つめている。
「あの、私、なにかおかしい?」
芹花は自分がおかしな格好でもしているのだろうかと不安になり、自分の体を見下ろした。
「天羽、あまり動かないほうがいいな。ここ、見えないように気をつけろ」
「え、ここ?」
芹花は橋口が指さした首元を手で抑えた。
首回りが深く開いているニットセーターを着ているせいで、指先が鎖骨に触れた。