極上御曹司に求愛されています
「セーターとの境目あたり、動いたらたまに見えるぞ。真っ赤な独占欲が」
「真っ赤な独占欲……あっ」
芹花は慌てて両手で首元を抑えた。
「恋人とうまくいってるのか気になってたけど、木島さん、天羽のことが大好きみたいだな」
橋口は辺りを気にしながら、小声で芹花をからかった。
「仕事を始めてすぐに恋人と別れたって言ってただろ? それ以来なんの話もないから俺の友達でも紹介しようかと思ってたけど、その必要はなかったな」
「う、うん……。必要はないので、ご心配なく」
芹花は真っ赤な独占欲とやらを気にしながらコクコクと頷いた。
橋口が気づいた赤い印はきっと、昨夜愛し合った時に、悠生が遺したキスマークだろうと思い当たる。
長く恋人がいなかった芹花にとって、こうしてからかわれること自体初めてに近く、まごつくばかりだ。
「えっと、ロッカーにスカーフがあるから、あとで取ってこようかな」
胸元を気にしながら呟く芹花に、橋口は複雑な表情を浮かべた。
その見た目の良さと超有名企業創業家一族の御曹司である木島悠生が芹花の恋人だと知って、かなりの衝撃を受けたが、同時に芹花には荷が重すぎるのではないかと危惧した。
けれど、その恋人は、わざと見えそうで見えない場所にキスマークを残すほど、芹花に惚れているらしい。
男性が多い職場で自分以外の男が芹花に近づかないよう牽制の意味で赤い痕を残したのだろう。
だから、芹花がスカーフで隠すなど、許さないはずだが。
橋口は耳まで真っ赤にしている芹花に、とりあえず今はそのことを言うのは控えようと思った。
芹花の恋人の気持ちは同じ男としてよくわかるのだが、これ以上あたふたさせるのも可愛そうな気がするのだ。
「ん?……おいおい、ここにもか」
橋口は、ショートカットのせいですっきり見える襟足にも、真っ赤な独占欲が残されているのに気づき、小さく息を吐いた。