極上御曹司に求愛されています

「どれだけ天羽のことが好きなんだよ」
 
苦笑した橋口は、芹花への独占欲を隠さない木島悠生とはどんな男なのだろうかと興味がわいたが、今はそれより重要なことがあったと思い出した。

「なあ、イラスト集の重版の件だけど。出版社としては、発売を記念してサイン会をしたいらしいんだ」
 
橋口の言葉に芹花は表情を引き締めた。

「それは前に言われて断ったんだけど」
「もちろん知ってる。顔出しNGだし名前も伏せるという条件で出版をOKしたというのも理解してる」
「だったらどうして今更サイン会なんて……」
 
か細い声で俯き、芹花はため息を吐いた。
やっぱりだめかと橋口は眉を寄せるが、出版社側の意向もわからなくもない。
イラスト集の発売が公表されて以来、SNSでは発売を待ちわびる声が溢れ、出版社の予想以上に予約が入っている。
そのことがテレビで取り上げられる機会も多く、そのたび作者は誰なのかと話題になっている。
マスコミが本気で探れば、作者が芹花であるとばれるのも時間の問題だ。
そうなれば、望まぬ形で芹花がマスコミに追われると想像するのは容易だ。
だからこそ、ちゃんとした形で芹花のことをマスコミに明らかにしたいという理由もあり、サイン会を持ち掛けてきたのだ。
もちろん、発売前の重版が決まった今、さらに多くの売り上げを見込んでサイン会を開きたいという思惑もあるのだが、それは出版社としては当然のことだろう。

「たしかに名前と顔を公表したくないのもわかるけど。ここまで話題になってしまったらいつかはばれるって覚悟しないといけないと思うぞ」

橋口の真面目な声に、芹花は視線を上げた。

「昨日の段階で、ネットのランキングは予約段階にも関わらず一位だ。重版もこれから何回かあるだろうって話だし」
「そんなに?」
 
芹花は信じられない思いで目を見開いた。


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