極上御曹司に求愛されています
「そこでだ。出版社としては、ここで勝負をかけるというか、会社一丸となって売っていくらしいんだが」
興奮している芹花に、三井はためらいがちに言葉を続ける。
大きな法律事務所の代表としての自信と貫禄を身にまとい、裁判でも決して臆することなく自身の責任を果たす三井だが、今はその面影などなく芹花の反応を神経質にうかがっている。
「所長?」
滅多に見ることのない三井のそんな姿に、芹花は戸惑った。
「あの、出版社でなにかあったんですか?」
「いや、なにかあったというか。結局、天羽のサイン会をしたいってことで、是非とも説得してくれと頼まれたんだな、うん」
三井は視線を泳がせ、言葉を詰まらせる。
出版社からはこれまで何度もサイン会を開きたいと頼まれていたが、これまで芹花が頑なに断っていることを知っているだけに、なかなか言い出せなかったのだ。
今も顔をしかめた芹花を目の前にして、どうしようかと困り果てている。
しかし、出版社から聞かされた話を思い出し、言葉を続けた。
「実は、売上のことだけでサイン会の話が出てるわけじゃないんだ」
三井の表情が一瞬で硬いものに変わった。
声も、それまでのおちゃらけたものでも、芹花を気にする気弱なものでもない。重く低い声が響き、芹花は思わず姿勢を正した。
「マスコミが、イラスト集の作者が天羽だと掴んだようなんだ」
「……そうですか」
芹花が動揺しないかと、三井はヒヤヒヤしたが、芹花はしばらく考えたあと、あっさりと答えた。
「いつかは私のことも知られると覚悟はしていたんですけど。案外早かったですね」
「え、覚悟してたって、そうなのか?」
「はい。橋口くんからもいずればれるからその前に身元を公表したほうがいいって言われて。サイン会はその絶好のチャンスだからしようとしつこく……いえ、熱心に説得されたんですけどなかなか決心がつかなくて」
落ち着いて話しながらも、やはり気が進まないのか、芹花はうつむいた。