極上御曹司に求愛されています
それはそうだろうと三井は納得する。
SNSで絵が評判になるのと身元を公表するのとではわけが違う。
芸能人でもなければ政治家でもない一般人なのだ、躊躇するのも当然だ。
「どうしても名前や顔を公表したくないのなら、全力で守るぞ。今なら各マスコミにお願いとして通達を出すこともできる」
「そんな、大げさですよ。たとえ私の名前と顔が知られてもすぐに忘れられるだろうし、気にしすぎなんですよね、きっと」
芹花はそう言って明るく笑うと、手の中にあるイラスト集を再び見る。
表紙の傘のイラストは芹花の自信作だが、オビの文字も素敵だ。
楓のおかげでイラスト集の価値が上がったように見えるのは気のせいじゃないはずだ。
オビだけでなく、こうして一冊のイラスト集が完成したのは芹花だけでなく多くの人のおかげだ。
なかでも編集部の担当者の熱意は相当なもので、よりよいものを作ろうとして印刷にも立ち会い、微妙な色の出方にも細かく意見したと芹花は聞いている。
そのおかげでイラスト集のどのページを開いても、芹花が思い描いたイメージそのものを感じることができる。
その熱意への感謝とお礼というわけではないが、こうなれば、怖がって逃げている場合ではない。
目の前には、何かあれば法律という武器で芹花を必ず守ってくれるに違いない三井もいる。
芹花はイラスト集を見つめながら、深く息を吐き出し、三井に視線を向けた。
「サイン会、します。なにかあれば、よろしくお願いしますね、三井先生」
不安はゼロではないようだが、どこか吹っ切れた表情でそう言った芹花に、三井は「任せておけ」と力強く答えた。