極上御曹司に求愛されています


芹花がサイン会をすることをOKしたと聞き、出版社は大急ぎで日程を組んだ。
発売日から一週間の間に、都市部の大型書店三か所と地方の一か所でサイン会を開くことになったのだが、出版社のHPで告知を行ってすぐに応募が殺到し、期日を待たずに応募は締め切られた。
そのことに気をよくした出版社は、日を開けてサイン会の追加をしようと盛り上がっているが、芹花にも事務所での仕事があり、それには待ったをかけている。
すでに十九時を回った今も、芹花は会議室の机に資料を広げ、裁判所に提出する書類を作っている。

「サイン会をするって発表して、予想以上の反響みたいだけど、大丈夫か?」
 
ここ数時間会議室にこもっている芹花の様子を見に、橋口がやってきた。

「うん。出版社の人が準備してくれるから、私は当日現地に行ってサインするだけでいいの。飛行機に乗るなんて高校の修学旅行以来で、それがちょっと不安だけど」
「緊張もするだろうけど、俺も同行するし、ちょっとした旅行気分で楽しめばいいんじゃないか?」
「……そこまで楽観的になれないけど、まあ、頑張る」
 
当日は簡単な挨拶とサインをしてくれればいいと出版社の担当編集から言われているが、簡単な挨拶とはどういうものなのかわからない。
サイン会の前日に出版社と事務所のHP上で芹花の顔と名前を公表することになっているが、どうなるだろうかと不安は尽きない。

「あ、これ、サイン会の予定表が届いたんだ。最初のサイン会は発売日当日なんだけど、天羽が結婚式でどうしても地元に帰らないとだめってことで、その地元でサイン会だ」
「地元? あんな田舎町のどこでサイン会? まさか公民館をお借りしてとか?」
 
芹花は眉を寄せ、橋口から予定表を受け取った。

「それとも礼美が結婚式を挙げる、町で唯一のホテルでするのかな」
 
予定表を見れば、そこには計四回のサイン会の予定が書かれていた。
その一番上にはたしかに芹花の地元の名前が書かれていた。


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