極上御曹司に求愛されています

「それで、当日は結婚式があるホテルに出版社の人が迎えに行くことになってるから」
「わかった。でも、ひとりでも行けるけど? タクシーに乗ればすぐだし」
 
ホテルから書店までは車で十分もかからないはずだ。
わざわざ迎えにきてもらうほどでもない。

「うーん。前日に天羽の顔とプロフィールを公表するから、もしかしたらホテルにもマスコミが来るかもしれないんだ。だから、その対応をしなければならなくなった時のために出版社の人と三井先生が迎えに行くことになってる」
「どうして忙しい三井先生がわざわざ?」
 
驚く芹花に、橋口も「そうだよな」と呟いた。

「天羽の本業はうちの事務所の事務職員で、イラスト集は事務所の名刺代わりっていうのもあるから、代表の俺がつきそうって三井先生は言ってたけど。まあ、結局楽しんでるんだよ、色々。サイン会なんて一般人には縁のないことだからさ、わくわくしてるんじゃないか?」
「わくわく……するくらいなら、サイン会も代わってほしいけど」
「だよな」
 
肩を揺らして笑う橋口につられ、芹花も笑い声をあげた。

「三井先生は竜崎さんのファンみたいだし、もしかしたらまた会えるかもしれないって期待してるのかもね」
 
冗談めかしてそう言ったが、楓と会えたことをあれほど喜んでいた三井のことだ、本気でそれを期待しているかもしれないと、芹花は思った。

「なあ、もしもだけど、サイン会に竜崎楓が顔を出すってことは……やっぱりないよな」
「は?」
 
ここにも楓ファンがひとりいたかと芹花は呆れた。橋口がそわそわと期待しながら芹花の答えを待っている。

「いや、天羽とは以前からの顔見知りだし、サイン会にふらりと顔を出してくれないかなと。あ、いや、俺は三井先生とは違うぞ。イラスト集の売り上げのために来てくれたらと思ってるだけで、決してミーハーな気持ちからじゃないんだ」
「ふーん」
 
真っ赤な顔で焦る橋口に、芹花は目を細めた。

「そういうことにしておいてもいいけど。私と竜崎さんは顔見知りと言えるほど親しくないし、日本にいるかどうかもわからないから、ふらりと顔を出すなんてことあり得ない」
「……やっぱりか。そうだよな」

橋口は明らかに落ち込み、がっくりと肩を落とした。
三井といい橋口といい、よっぽど楓のことが好きなんだと、芹花は苦笑した。

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