極上御曹司に求愛されています

「違うわよ。話題のイケメン御曹司さんの顔が見たいのよ」
 
甲田が投げやりにそう言ったと同時に、書庫から一人の男性が姿を見せた。

「は? 悠生さんが、どうして……?」
 
書庫から出てきたのは、久しぶりに会う悠生だった。
目の前には見慣れたスーツ姿の悠生が何とも言えない表情で立っている。
信じられない思いでまじまじと見た。
落ち着かない気持ちを抱え、ずっと会いたいと思っていた人が目の前にいる。
それだけでここ数日の面倒でややこしいあれこれが大したことでもないかと思えてしまう。
楓と一緒写っている写真のことも、どうでもよい……わけではないが、後回しでいいかと思える。
甲田が言うように、自分は単純だと、芹花は思った。

「天羽さんが単なる知り合いだと言いたくない、大切な恋人っていうのは、彼のことだよな?」
 
見つめ合う芹花と悠生の間に割って入った三井は、ニヤリと笑い、芹花は躊躇なくコクコクと頷いた。

「あらま。天羽さんがこんなに恋に素直になるなんて、今年一番の衝撃だわ。早々にこんなコントのような芝居から脱落していて良かった」
 
甲田は疲れたようにそう言って、芹花の背中を軽く叩いた。
そして、悠生を軽く睨みつけた。

「慌ててやって来て、謝り続けた甲斐があったわね。天羽さんのことが好きな弁護士先生は結構いるんだから、今度面倒なことに巻き込んだら即裁判所行きだからね」
 
腰に手を当てぴしゃりとそう言った甲田に、悠生は表情を崩し満足気に笑った。

「芹花、気を揉ませて悪かったな」
 
甲田の言葉にひるむことなく、悠生は晴れ晴れとした表情を浮かべた。
芹花はかぶりを振った。

「大丈夫だけど、でも、どうしてここに来たのかがよく……」
 
まさか自分の職場に悠生がいるとは理解できない。
芹花は三井と甲田に助けを求めるように視線を向けたが、二人はニヤニヤ笑うばかりで何も答えようとしない。
 
ただ、タブレットを見せられた時のようなギスギスした雰囲気は消え去り、生暖かい空気が部屋に充満している。

「あーあ。木島さんのような御曹司と一緒にいると、大変なことばかりなのに。この記事のせいにしてさっさと諦めさせようと思ったのに、三井所長の作戦も撃沈しちゃいましたね」
 
大げさにため息をつき、甲田は三井と顔を見合わせた。
三井は甲田以上にがっかりした顔を見せたかと思うと、顔を悠生に向けた。


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