極上御曹司に求愛されています
芹花の妊娠がわかり、夫婦で大喜びをしたのも束の間、つわりが始まり、芹花は大変な毎日を送っている。
絶えず軽い吐き気を覚え、家事をするどころかひとりで出かけることができなくなってしまった。
妊娠五カ月を迎え、そろそろ落ち着いてくるだろうとドクターには言われているが、つわりがあるのは赤ちゃんが元気に育っているからだと聞いて以来、つわりを感じるたびお腹の赤ちゃんへの愛情も強くなっている。
「私は大丈夫だから、お仕事頑張って。社長の悠生さんがおろおろしてたらダメでしょ?」
「それはわかってるし、会社ではちゃんと俺は社長だって言い聞かせて頑張ってるから大丈夫だ。だから、今日一日くらい休んでも問題ない」
「問題ありです。出産の時ならまだしも、妻のつわりで仕事を休むなんて論外です」
きっぱりとそう言った芹花に、悠生は眉を下げた。
「やっぱりそうだよな」
芹花の強い言葉に悠生ががっくりと肩を落とした時、インターフォンの音が鳴り響いた。
「ほら、お迎えです。私のことは気にせず行ってください。今日はお義母さんと千春さんが来てくれるし、何かあれば連絡するから」
芹花はそう言ってゆっくりと立ち上がり、大きく息を吐いた。
起きてから続いていた吐き気もおさまり、立ち上がっても平気だ。
悠生も立ち上がるが、相変わらず芹花が気がかりなのか、なかなか動こうとしない。
「悠生さん?」
マンションの前で迎えの車が待っているはずだ。
芹花は早く行くようにと悠生の背に手を当て促すが、なかなか悠生の足は動かない。
「まだ顔色が悪いぞ。病院に行ったほうがいいんじゃないか」
「その必要はありません」
「だ、だよな……」
再びきっぱりと言い切る芹花に、悠生は口ごもった。
「じゃあ行くけど、何かあれば本当に連絡しろよ。母さんと千春さんが押しかけてきても、体がつらかったら帰ってもらうんだぞ」
「はいはい。わかりました。今日はお義母さんと千春さんと家でのんびりしてますから安心してください」
「……わかった」
芹花はようやく仕事に行く気になった悠生を急かすように送り出した。
家を出るギリギリまで芹花を抱きしめていたせいで、予定よりも遅れ気味。
迎えの車で待つ運転手からからかわれるだろうけど、いつものことだと芹花はくすりと笑った。