極上御曹司に求愛されています
そんな中、芹花の妹、杏実は音大を目指していて、彼女の学費もまだまだ必要だ。
芹花に必要だった学費よりも多額の学費が必要のはずで、両親はまだまだ仕事をやめられそうもない。
できれば、両親には仕事をやめてもらいあの食品会社との縁は人知れずひっそりと切ってしまいたい芹花だが、現状を考えればそれはかなり難しい。
地域の雇用の大半を担っている工場をやめれば、再就職のあてはほとんどないのだ。
芹花にとって、両親が働く小沢食品は、切ない恋を思い出す象徴だ。
けれど、杏実が音大を卒業するまでのこれから五年を、どうにか気持ちに折り合いをつけて頑張らなければならない。
芹花は目の前に広げたスケジュール帳を見ながら顔を歪めた。
彼女の視線の先には十二月二十日の欄に書かれている〝イラスト集発売日″そして、〝帰省〟の文字。
芹花はその文字を睨み、スケジュール帳をめくって最後のページに挟んでいるハガキに視線を落とした。
二つ折りになっているそれは結婚披露宴の招待状で、新郎の香西修は芹花が大学時代から二年前まで付き合っていた元恋人だ。
芹花と付き合いながらも彼女の高校時代の友達である小沢礼美と恋に落ち、あっという間に芹花は振られてしまった。
芹花が高校の同窓会に出席した時、たまたまスマホにあった修の写真を見た礼美が彼にひと目ぼれし、芹花に何も言わず修の会社に会いに行ったのだ。
そして修も、雑誌の読者モデルをするほど見た目が整っている礼美に気持ちを揺らし、そして彼女の押しの強さに陥落した。
芹花に「別れてほしい」と言い出すのに大した時間は必要なかった。
というより、芹花が礼美に修の写真を見せて約二週間で芹花は振られてしまったのだ。
その二人が来月結婚する。
それも、イラスト集の発売日に。