極上御曹司に求愛されています
「あの、ね。私はもう修のことはちゃんとふっきれてるから気を使わないで大丈夫」
芹花は興奮気味の綾子を落ち着かせるようにそう言った。
思い込んだら即行動の綾子のことだ、芹花への友情ゆえに礼美に怒りをぶつけでもしたらまずいと、焦る。
「いつまでも過去にこだわってないし、修くん以上の格好いい男性に会うことがあるし」
綾子の気持ちを鎮めるために軽くそう言って笑った芹花だが、そう口にした途端心に浮かんだのは、他の誰でもない、悠生の端正な顔だった。
恋愛に慣れていない芹花を、からかうように優しい言葉と甘い仕草で翻弄した男前。
大企業の御曹司で、多くの女性からの熱い視線にさらされている別世界の男性。
自宅に帰ってから簡単にネットで検索すれば、マスコミにも取り上げられる機会が多い有名人だとわかった。
そんな、芹花とはすれ違う程度の縁もないような遠い存在の男性の姿が、何故か芹花の胸をときめかせた。
「ねえ、それって本当?」
芹花の落ち着かない気持ちに気づくことなく、綾子は弾んだ声をあげた。
『とうとう芹花にも恋人ができたの? まあそれだけかわいいのに恋人がいないっておかしいと思ってたのよ』
「え、そうじゃなくて、ただ会って食事をして……」
『芹花がこっぴどく振られて礼美にかっさらわれて以来、誰にも目を向けようとしなかったし男性の話を聞いたこともなかったのに。そうか、格好いいって芹花が口に出すくらいだもん、それって恋人よね?』
自信に満ちた声で尋ねる綾子に、芹花はどうしてそんな考えが浮かぶのかと戸惑った。
たしかに修と別れてからというもの、綾子は男性の話を口にすることのない芹花のことをかなり気にかけていた。
ただ仕事に励み、休日も出かけている様子のない芹花に嘆き、本気で心配していたのだ。
そんな芹花の口から男性の気配を感じさせる言葉が出れば、それは恋人ができたということに違いない。
綾子は自分のその考えを疑うことなく言葉を続けた。