いつまでも愛していたかった
重苦しい空気に耐えかねるように、食事は湯気を消した。
すっかり冷めてしまったのだろう。
部屋には時計の音と、空気清浄機の音。
私はようやく椅子に腰掛けた拍子に、かたん、と音が響いて彼が顔を上げた。
その顔を見ずに、今度は私が目をそらす。
『私は幸せになる道を選びたいの。そこに今のあなたは居ない……。鍵を置いて、出ていって』
彼が動揺する気配が伝わってくる。
けれど、どうすることも出来っこない。
お互いに、そんなことはわかっている。
穏やかな人だった。
優しくて、正直で、少し気弱な。
真面目で、実直。
傍から見たら損をしているんじゃなかいかと思うこともある。
燦々と輝く太陽ではないけれど、ぽかぽかと暖かい日溜まりのような人。
彼のことが“好きだった”。
この想いはもう過去形にしなければいけない。
さようなら、大好きだった人。
愛していた人。
顔をあげた私の目に飛び込んでくるのは、苦しそうで寂しそうな、傷ついた瞳。
目が合った後、何も言わずにゴソゴソとこの部屋の合鍵を取り出してそっと立ち上がる。
足音ともに躊躇いがちな手が伸びてきたけれど、それをかわして再び私は視線を伏せた。
彼が空を掴む気配がして、ややあって、カチ、と鍵がテーブルに置かれた。
そして、彼はこの部屋を出ていった。
しばらくは頭も働かなくて、何を考えるでもなくただ時間が過ぎていく。
『ご飯、片さなきゃ』
ようやく働いた頭でポソッと呟いて立ち上がる。
冷え切ったおかずをラップに包み、ご飯をおかまに戻し、パタンと炊飯器の蓋を閉じると一気に現実がおしよせてきて、ボロボロと涙が零れた。
―――これが、数ヶ月前のこと。
すっかり冷めてしまったのだろう。
部屋には時計の音と、空気清浄機の音。
私はようやく椅子に腰掛けた拍子に、かたん、と音が響いて彼が顔を上げた。
その顔を見ずに、今度は私が目をそらす。
『私は幸せになる道を選びたいの。そこに今のあなたは居ない……。鍵を置いて、出ていって』
彼が動揺する気配が伝わってくる。
けれど、どうすることも出来っこない。
お互いに、そんなことはわかっている。
穏やかな人だった。
優しくて、正直で、少し気弱な。
真面目で、実直。
傍から見たら損をしているんじゃなかいかと思うこともある。
燦々と輝く太陽ではないけれど、ぽかぽかと暖かい日溜まりのような人。
彼のことが“好きだった”。
この想いはもう過去形にしなければいけない。
さようなら、大好きだった人。
愛していた人。
顔をあげた私の目に飛び込んでくるのは、苦しそうで寂しそうな、傷ついた瞳。
目が合った後、何も言わずにゴソゴソとこの部屋の合鍵を取り出してそっと立ち上がる。
足音ともに躊躇いがちな手が伸びてきたけれど、それをかわして再び私は視線を伏せた。
彼が空を掴む気配がして、ややあって、カチ、と鍵がテーブルに置かれた。
そして、彼はこの部屋を出ていった。
しばらくは頭も働かなくて、何を考えるでもなくただ時間が過ぎていく。
『ご飯、片さなきゃ』
ようやく働いた頭でポソッと呟いて立ち上がる。
冷え切ったおかずをラップに包み、ご飯をおかまに戻し、パタンと炊飯器の蓋を閉じると一気に現実がおしよせてきて、ボロボロと涙が零れた。
―――これが、数ヶ月前のこと。