いつまでも愛していたかった
食事はもうデザートに差しかかるところだ。
香り立つコーヒーが運ばれてきて、間もなく先程二人が入刀したケーキも運ばれてくることだろう。
私はもう一度、高砂を見やる。
スポットライトは相変わらず二人を照らし続けている。
彼女は洗練された美しさをもち、彼はぎこちなく笑っている。
ふとした拍子に視線が交わると対象的な顔をした。
優雅な笑みをたたえる彼女に対し、ぎこちない笑の奥の苦しそうに傷ついた寂しそうな瞳。
ふっと視線を外して暖かなコーヒーを一口飲む。
芳ばしい香りが広がって、心が凪ぐ。
「……ずるい人ね、本当に」
そうして私はデザートが来るのを待たずに、席を立った。
このあと用事がありまして、と酔って何も聞こえていないだろう上司に会釈してひっそりとその場を去る。
おそらく、もう少しの間、宴は続くのだろう。
私達はもう他人だ。
この先、彼と彼女、そして産まれてくる子どもが幸せになれるかどうかはわからない。
幸せになれる道など決まってはいないから。
何を選び、どう生きるのか。
そしてそれを幸せと感じるかどうかは自分次第のはずだ。
私の道の先には彼はいない。
いない道を選んだ。
これからの私の幸せは今から見つけていくしかない。
最後に振り返り、さようなら、と、高砂で光を浴びる彼に音にならない声で呟く。
さようなら、大好きな人。
大好きだった、人。
愛した人。