いつまでも愛していたかった

彼女の言い分


司会者のひやかしの様な問いに、恥じらいながら微笑みを漏らすのは、社内で噂の美人秘書だ。
花が綻ぶような笑顔で、派手な顔に見合う化粧と爪の先まで美しく施された体を包む豪華な白いドレス。
“女”という自信に満ちた彼女は、なるほど同じ女の私から見ても美しい。
派手な出で立ちで女性らしいボディラインも下卑てみえることなく、慎ましく振る舞う仕種は計算し尽くされていて無駄がない。

私はその様子を、乾杯のシャンパンを飲みながら眺めていた。
自らを美しく魅せるために計算し尽くされたその容姿と所作に、多くの男性陣は目を奪われている。
……あれくらい、仕事にも無駄がなければ良いのに。


彼女が仕事ができるかは置いておいて、こと男を操る事に関してはお手のものだというのは、この様子を見ても明らかだ。
しかし、彼女が男性を虜にさせるのは容姿や所作だけに留まらない。
その美しさにさることながら、実は誰もが知る大手ホテルグループの社長の一人娘だと言うのだから神様というのは少しばかり贔屓が過ぎる。
なぜ社長令嬢ともあろう人がたとえ自社グループだとしても働いているのか。
甚だ疑問はあるものの、それはそれで良かったのだ、彼女が仕事ができたのであれば。
扱いにくくとも、仕事ができたのであれば、問題はないはずだ。
そう、仕事ができたのであれば、だ。

あいにく、彼女には仕事をする素質は無いに等しかった、と言わざるを得ない。
なぜ働こうと思ったのか?と、聞きたくなるほどに本人のやる気は見えず、最低限の仕事にさえフォローがいる始末。
けれど、さすがに社長令嬢であるがゆえ、彼女の顔は広く来客者には可愛がられる。
そうして彼女自身が広めたわけでなくとも、お嬢様大事にしている日和見な重役たちを見れば噂はたち、自分に自信のある男達は我先にと彼女に取り入っていたのだが。

これがなかなか強かである。


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