いつまでも愛していたかった
「私なんて、橋本さんの足元にも及びません」
と、彼女の口癖。
誰を隠そう、橋本さんとは私のことである。
確かに、彼女の為す仕事のフォローは私がいれることが8割強。
それというのも、歳が近く、当たり障りなく仕事をこなすスキルがある私は多分、彼女からしたら目の上のたんこぶのようなものだったのだろうと予測する。
何かにつけ引き合いに出される私、こと橋本さんを彼女は決して好いているわけでも、まして尊敬しているわけでもない。
単に自分のできないことへの言い訳と、自分を下に見積ることで周囲にいじらしく、健気な印象を植え付ける為だけのものだ。
そう言っておけば、そんな事ないよ、良くやってるよ、と言わざるを得ない。
それを無意識でやっているのならばそれはそれでタチが悪い。
しかし彼女はむしろ意識的に行っているわけで、そうしてみた所で、良い気がしないのは事実。
というよりも、こちらとしては胸糞が悪いとしか言い様がない。
彼女のことをこう並べると、僻みだろうなんて野次が飛ぶやもしれないが、そんなのは知ったことではない。
彼女の使う言葉の端々に何故か引き合いに出される私がいて、私にとってはいい迷惑だ。
振った仕事はできなくて、回ってきた仕事も中途半端。
けれどそれを咎める人もいなければ、なぜフォローをしないのだ?とばかりに私に詰寄る。
私には私の仕事があるわけだけれど、何故か周囲はそれに気づいていない様子。
いや、気づいていないわけがないのだが、そんなのは知ったことではない、ということなのだろうけれど。
こなさなければ仕事は終わるわけがなく、終わらないとなれば他の人の業務にまで関わってくる問題だ。
彼女にしても、上司にしても、自分の身は守りたいというのが明け透けに見える。
けれど悲しいかな、これが現実である。
そろそろ転職を考えてもいいかもしれないとすら思えた。
もう、この会社に縛られる意味もない。