いつまでも愛していたかった
彼女が職場ですることといえば、専ら来客対応である。
またの名を無駄話という。
社長令嬢という立場を笠にきた、給料泥棒のようだと庶民の私はいやしくも思う。
しかしながら、生まれ持った環境のお陰で恭しく、そして見目麗しい彼女は来客"対応"に関してのみは秀でていた。
その点については認めよう。
仕事の話などは一切していなかったが。
頭の回転が悪い訳では無いのに、仕事に関して興味を示さない為に宝の持ち腐れだ。
甘やかされて育った彼女は、将来、もし一人になったとしたら生きていく術があるのだろうか、などと余計なお世話を焼きたくなる始末。
まぁ、会社は今のところは安泰で、そんな心配は余計なお世話なことは重々に承知しているが。
見目麗しく恭しい、そして社長令嬢というその魅力は社内外の男性たちを虜にする。
当然だ。
自信のある男性達は挙って彼女に言い寄っていたが、余裕の笑顔でヒラリと躱す。
そういう振る舞いも、見る人から見れば魅力の一つなのだろう。
『嬉しいお言葉、ありがとうございます。でも私……』
なんて、かるくいなされ、誰にも色良い返事を返さない。
無理難題を押し付けるというわけではないけれど、まるで誰も心に触れられないかぐや姫のように、誰にも靡かない高嶺の花だと謡われた彼女が、この度めでたく結婚した。
高砂の彼女は自分の魅力を十分に理解し、輝いている。
彼女の持つその美貌と富と人脈に影でどれだけの男達が悔しさに歯軋りたてていることだろうか。
彼女自身だけでなく、広いこの会場は煌びやかに装飾されこの日を祝福している。
披露宴に一体いくらかかけたのだろうか。
彼女の思い描く通りを出来うる限り実現したのだろう、これでもかと言わんばかりに絢爛豪華だ。
そこかしこにテレビで見ることもあるような有名人さえも紛れている。
それは彼女の立ち位置を顕著にする。
彼女自身は何もしていないと言うのに。
この集まりは一体なんなんだ。
私はなんでここに居るんだ。
この祝いの場に、私はそぐわない。
睨むようにもう1人の主役―――…
その彼女のハートを射止めた、彼を見る。