いつまでも愛していたかった
「あ、はい。彼女は、素敵ですよ、とても」
司会者からの質問に答えるのは、なんとも頼りなさそうな幸の薄そうな男。
取り立てて顔がいいという訳でもない。
溌剌とした雰囲気もない。
バリバリに仕事が出来るというわけでもない。
彼は、会社でも取り立てて目立つことはなく、いつもヘラヘラとしてかつ、ペコペコとしている。
当然ながら、彼女に言い寄っていた男性陣の方がまず間違いなく将来は有望であろうと思われる。
そんな中、特別アプローチをしていた訳でもない彼に、何故彼女が惹かれたのか。
それは恐らく、誰もが思っていたことだっただろう。
食事は魚料理が終わり、口直しにグラニテが運ばれてきた頃だ。
赤ワインのグラニテは、サッパリと、ひんやりとして口の中がすっきりする。
お肉料理が運ばれる前に、私は手を止め、テーブルの上でそっと手を組み目の前で行なわれている茶番劇のような宴を反芻する。
司会者は、彼女に問うた。
――結婚の決め手は?
彼女は答える。
――彼はまっすぐで、嘘をつくことができない人なので。
司会者は、彼に問う。
――素敵なご新婦様ですね。どこを一番お好きなところは?
彼は答える。
――あ、はい。彼女は、素敵ですよ、とても。
程なくしてお肉料理を運んできた給仕係に会釈する。
私はナイフとフォークを手に取って、ボソリと独りごちる。
「嘘がつけない、ねぇ」
クスリと笑った声は、誰かに届いただろうか?
あるいは、彼が密やかに私と目を合わせたことを、誰かが見ていただろうか。