いつまでも愛していたかった
彼も落ち着く家にしたいと思った。
だから、我が家は白や淡いグリーン、木目等のナチュラルな家具で整えていた。
家を借りた頃にはまだ小さかった観葉植物も少し大きくなったように思う。
ベージュの小さなソファで、その時の彼は俯いていた。
音もなく、静かな空間には時計の音と空気清浄機の音だけが響いている。
テーブルの上の食事も冷めてしまった。
私はそんな彼をテーブルにもたれながら見つめていた。
失意の彼に、慰めの言葉など言えなかった。
どうしてこうなってしまったんだろう、と思えば思う程、彼女のことが恨めしかった。
彼女が私に固執していたからこんな結末になってしまったのか、それとも私なんかとは関係なくて、それでもこうなってしまったのか。
私に彼女の真意は見抜けないけれど。
『あなたのその優しさは時に残酷なの。まっすぐで正直で、清廉潔白でいたいのは自分が後ろめたい思いをしたくないからでしょう?それでもあなたがしたことは消えない』
投げやりに放ったその言葉に彼の肩がびくりと震えた。
彼が結婚をするそれ以前に、恋人だった私は、その言葉を彼に投げたのだ。
涙は視界を揺らすだけで、頭はとても冷静で。
こんな時くらい取り乱すことが出来ればいいのにと切に思ったものだ。
我を忘れるほど取り乱すことが出来たのなら、こんなにも辛くて苦しい思いなどしなくてもよかったはずに。
冷静な分だけ、にがくて苦しくて辛い。
突然の出来事で、感情は頭について行かなかった。
私はまだ、彼のことが好きだった。
彼だってきっと、私のことが好きだったのだ。
そうでなければこんなふうに肩を落としてなど居ないはずだ。
それでも彼女が、彼が冒した事実は消えない。
どんな甘言だったといえども、それに耳を傾けたのは紛れもなく彼自身だ。
彼女からの圧力だったとしても。
私の傍らにありながら、彼女の手を取ったのは、彼自身なのだ。