俺様上司の甘い口づけ


やっぱりこの人は薄情だ。
情なんてこれっぽっちもなかった。


「なんかないんですか?」


『なんかって?』


「だって、最後に仕事した
しかも成瀬さんの初めて組む後輩。
なんかないんですか?」


『んーそうだな…
必要なことはいろいろファイルにまとめておいて
「もういいです」


そういうことじゃないのに。



少ししか教えられなかったけど…とか
もっと教えてやりたいことはあるけど…とか
お前なりに頑張れ…とか
俺がいなくても大丈夫だ…とか
何かあればいつでも頼れ…とか

そういう精神的なことよ。


だれも残された仕事の引き継ぎなんて話はしていない。


『おい。なんで拗ねてって泣いてる?』


「もうこっちだけこんな寂しい思いしてるなんてバカみたい」


『は?』


「あーあ。そうでしたね
泣く女は嫌いって組んだ頃言ってましたよね…」


『いやあれは』
「もういいですよ。どうせもう会うことないんですから」


『まてよ…』


掴まれた腕は振りほどけないほど強かった


「力づくなんてずるいです」


そう。成瀬さんは細身にして力が強い。


『ああ。だけどどんなずるくたっていい。
今この手を離したら後悔しそうだから…』
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