『The story of……』

完全に年下と思われていたことに、思わず小さくため息を漏らした。


そんなわたしの密かな悩みなど知る由もなく、


「鬼ごっこ楽しかった。じゃあね、愛都」


陸奥くん綺麗な笑顔と、手のひらにはイチゴミルク味のキャンディが残されていた。


(ホントに……陸奥くんは女遊びしたりしてるのかな?)


穏やかで無邪気。

たった今、彼とのやりとりで感じたわたしの陸奥くんへの印象。
それは彼の噂をはますます信じがたくするものだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「愛都~」


「えっ……っ!?」


いつものように廊下を歩いていたわたしの向かいから、全力の綺麗な笑顔が近付いてきた。


思いがけない人に呼ばれて驚いて呆然と立ち尽くすわたしを、廊下でわたしたちの間に立っていた何人もが振り返っている。


それもそのはず……。



「む、陸奥くん」



わたしを呼んだのが、他でもない陸奥くんだったからだ。


廊下に居た数人の女子たちは、それはもうこの上なくわかりやすい程こちらを凝視していた。



そんな視線を物ともせず、


「……匠巳」


わたしを見下ろす陸奥くんは、寂しそうな子犬のような表情でこう呟く。


促されるままに、


「た、匠巳くん……」


彼の名前を呼んでみるけど、


「匠巳」
 

間髪入れずリテイク。


そのやりとりすら、廊下の女子たちに全部見られてると思うと恥ずかしいけど。
目の前で寂しそうな陸奥くんの表情を見てると、


「…………匠巳」


その希望にも応えたくなってしまう……。


観念して陸奥くんの希望に応え、彼の名前を精一杯のか細い声で呼ぶと、



「よく出来ました」


嬉しそうに笑った陸奥くんが、優しい手つきで頭を撫でた。
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