『The story of……』
わたしたちを凝視していた女子たちの眼差しが、驚きへと変わっていくのがわかる。
(匠巳は普段眠ってばかりだからな……)
きっとこうして誰かと話をしてること自体が珍しいのかもしれない。
それも、こんな綺麗な笑顔を見せることも……。
この女子たちの視線を受けたせいだろうか。
匠巳との不思議な関係を特別だって……勘違いしてしまったのは……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とある昼休み。
四限目の調理実習で作ったカップケーキを手に、わたしはそわそわとした気持ちを抑えながら廊下を歩いていた。
……もしかしたら、匠巳に会えるかも。
そんな期待を胸に目指していた三組の教室がある、その手前まで来た時だった。
「匠巳くんっ」
三組の前の廊下で見つけたのは、わたしと同じクラスの女の子。
学年でも指折りの可愛いと有名なクラスメートだ。
彼女に呼ばれて困ったように笑った匠巳が、両手に受け取ったのはわたしが持ってるのと同じカップケーキ……。
「ありがとう」
「…………」
あの綺麗な笑顔が惜しみなく彼女に向けられる。
それを目の当たりにしたわたしの中に、言葉に出来ないモヤモヤが生まれた。
(……匠巳)
「あっ」
三組の手前で立ち尽くしていたわたしに気付いたらしく、匠巳の綺麗な笑顔が彼女からこちらを向いた。
「…………」
匠巳の前に立っていた彼女が振り返るより先に、わたしの足は来た道を走って引き返していた。