『The story of……』
匠巳の笑顔を避けてしまった。
匠巳は何も悪いことをしてないのに……。
ただ、匠巳とあの子の姿を見たら……心に黒いモノが湧き上がって、匠巳を真っ直ぐに見ることが出来なかった。
匠巳が噂通り女遊びしていようと……わたしには関係無い。
そんな風にすら自分に言い聞かせてしまう。
(……嫉妬、してるんだ。わたし)
匠巳の優しい手のひらの温度と綺麗だけど可愛い笑顔を知るのは……わたしだけでありたかったんだ。
不思議な彼との不思議な出逢いから生まれたわたしの想いは、夢から覚めるようにあっという間に消えていく……はずだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「愛都っ。明日の朝食用の牛乳、買ってきて」
財布を渡してきた有無を言わせないお母さんに頼まれて、仕方無く近くのコンビニを目指す。
(いくら近いからって……こんな時間に女の子を外に出すなんて)
呆れながら携帯の時計を見れば、もうすぐ日付は変わろうとしていた。
まだ少し肌寒い春の夜風に身を縮め、小走りにコンビニに向かっていたわたしの前に、
「あっ……」
「……見つかっちゃった」
「……匠巳」
あの綺麗な笑顔が現れた。
見つかっちゃったなんて言葉とは裏腹に、匠巳の笑顔は嬉しそうにわたしを見下ろしている。
クラスメートの女の子のカップケーキを受け取る彼を見かけて以来、わたしは匠巳と顔を合わせるのを避けていた。
何日かぶりに言葉を交わした彼から、夜風に乗ってふんわり薫るシャンプーの香りがした。
(……もしかして)
その匂いにわたしは言いしれぬモヤモヤがふつふつと沸いてきた。