『The story of……』
「……一緒に来る? とっておきの場所」
「……えっ?」
「愛都だけに、教えてあげる」
こう言って微笑んだ匠巳が、着ていたパーカーをわたしに羽織らせる。
パーカー越しに伝わる匠巳の体温が、わたしを包み込んだのと同時に。
シャンプーと石鹸の匂いも全身を覆って、わたしのモヤモヤを増長させた。
「おいで?」
ひんやりと冷たい匠巳の指先に誘われながら、わたしはただ黙ったまま彼について行った。
そうして匠巳に連れられてきたのは、近くのマンションの屋上だった。
「灯りが一杯でしょ?」
匠巳が指差した先。
そこには沢山の街の灯りが溢れていた。
それを黙って見つめる匠巳の瞳に、ぼんやりと灯りが反射する。
「……温かくなるんだ。ここに来ると」
「えっ?」
「生活の灯り。あの下に……色んな人が、家族が居るんだって」
街の遠くを見つめる匠巳の指先は、さっきから冷たいままだ。
わたしはそれが匠巳の心を映し出してるみたいで、思わずギュッと握りしめた。
「……噂はホントだよ。独りぼっちで家に居るのが嫌で……僕を欲しがる人から体温を貰ってた」
匠巳が求めた温もり。
匠巳を欲しがった彼女たちは……そんな気持ちに気付いてあげられたんだろうか。