『The story of……』
わたしの姿に気付いた名波くんは、チラリと視線を窓からこちらに移し、
「…………」
野球部のマネージャー姿のわたしを、上から下までゆっくりと見た。
「あの……」
何て続けようかなんて全く考えていなかった。
とっさに声を掛けてしまったわたしに、名波くんは振り返ることなく廊下から去って行く。
(なんであんなに苦しそうなんだろう……)
野球部を見つめる名波くんの瞳。
険しさと苦しさの中に、どこか寂しい色を含んだあの視線には……どんな気持ちが込められているんだろう。
そんなことを思いながら、わたしは去って行く背中を見つめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっ? 名波?」
練習前の空き時間。
準備を整えた同級生に、わたしは思い切って名波くんのことを聞いてみた。
「いつも野球部、見てるみたいだから……」
「…………」
名波くんの名前を出した途端、彼の歯切れが悪くなる。
(……どうしたんだろ)