『The story of……』


野球に未練が無い人が……あんなに切ない表情で野球を見るだろうか……。


(名波くん……自分に嘘ついてる)



自分から野球を遠ざけてしまおとする名波くんが、わたしは悲しかった。



「……違う。しないんじゃない。出来ないんだよ」


「はぁ?」



この言葉が勘に障ったのか、足を踏み出そうとしていた名波くんが斜めにこちらを向いた。


(もう一度だけ……呼び掛けてみよう)



「また誰かを傷付けてしまうのが怖くて……ボールが投げれないんでしょ」



だからずっと、後悔と未練を引きずったまま……あの場所から動けないでいるんだ。



「知った風な口利くなっ。俺は野球なんかっ」


「だったら! なんであんなに悲しそうな瞳で野球部を見たりしてるのっ?」



「っ…………」



悔しそうに下唇を噛み締めた名波くんは、それなり口を噤んでしまった。



わたしの言葉は……名波くんに届いてるのかな?



< 125 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop