『The story of……』
「良かった……ホントに良かった」


頭の上から聞こえる先輩の声はまるで、本気でわたしを心配しているようだった。



そんなはずない。
だって先輩の瞳には、更紗さんしか映ってないんだもん。



「……どうして」


「愛都ちゃんにさよならって言われて、急に不安になった。また僕は……大切な人を失って立ち尽くしてしまうのかって……」



跪いた先輩の視線が、下からじっとわたしの瞳を見つめている。


ギュッと握られた手からは、先輩の温もりが伝わってくるみたいだった……。



「……恐かったんだ。居なくなった更紗を追いかけることも、愛都ちゃんを好きになってしまうことも」


「優申先輩……」



(先輩の手、震えてる)



思わずわたしの手を握り締めていた優申先輩の手を、両手で包み込んだ。


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