『The story of……』
「……ふ~ん。じゃあ、これは要らないんだね?」
食い下がる聡利くんに、お姉さんは最後の切り札を取り出した。
「それっ!」
いつの間にか抜き取った聡利くんの財布片手に、笑顔で脅迫するお姉さん。
段々この聡利くんが不憫になってきた……。
「さっさと行くよ。駅前で佑利(ユリ)も待ってるんだから」
佑利っていうのは、もしかしたら妹さんだろうか……。
とにもかくにも、姉たちの完全勝利が確定した。
観念せざるを得ない聡利くんは、げんなりした表情で足を進め出す。
「上総さん、また明日ねぇ~」
さっき聡利くんを捕まえたときの顔が嘘のように、遠野さんは笑顔でわたしに手を振った。
苦笑いで手を振り返すわたしに、聡利くんが一瞬こちらを向く。
縋るような子犬の瞳……。
ごめん……わたしじゃ助けられないよ。
心の中でひたすら聡利くんに頭を下げた。