『The story of……』

「あ、ありがとうございます」


小さく会釈したと同時に、聡利くんが伸ばした指先がわたしの手のひらに重なり、



「っ！！」


過剰なくらいに体をビクつかせたかと思えば、みるみるうちに染まった真っ赤な顔で、



「失礼しますっ」




ボタンをもぎ取るように荒く受け取り、聡利くんは脱兎の如く廊下を全力疾走。



「…………」



完全に一人、取り残される形になったわたしはポカンと彼の背中を見つめるばかり。



（……嫌われて、る？）




昨日、出会したときもそうだった。


遠野さんのクラスメートであるわたしに、聡利くんは警戒心剥き出しだった……。




（馴れ馴れしくし過ぎちゃったかな）



少しだけチクリと痛む胸で踵を返し、左手に握っていたソーイングセットをそっとポケットにしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


あれからなんとなく、窓ガラス越しに見かける聡利くんを目で追いかけるのが癖になっていた。



たまに視線の合う聡利くんは、いつも驚いたように目を開きそそくさと去ってしまう。



（……ちょっとヘコむな）