『The story of……』
「そんなの、逃げてるだけだよっ。もっと……自分のこと、信じてあげて?」


「…………」

目の前で二塚くんの瞳が大きく揺れた。そこから決して視線は逸らさない。



「二塚くんは人一倍頑張ってるからレギュラーなんだよっ。……市原くんが言ったからって、それだけなワケ無いよ」



部活後の自主練。

二塚くんのレギュラーは間違いなく、二塚くんが自分の力で勝ち得たもの。

わたしは、そう信じている。



「上総」


静かにわたしを呼ぶ声に、わたしは二塚くんをじっと見据える。


「……信じるよ。自分のこと」


さっきまで不安そうに揺れていた瞳が嘘のように、強い眼差しへと変わった。



「だから……見てて欲しい。俺、がんばるからっ」


「うんっ。見てるよ……がんはってね」


二塚くんが笑う。

消えそうな小さな笑いでも、誤魔化し混じりの作り笑いでもない。


それは晴れ晴れとした、迷いの無い真っ直ぐな眼差しをした笑顔だった。
< 52 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop