『The story of……』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それから数日。

わたしは昼休みの校舎裏を、ぼんやりと空を見上げながら通りかかっていた。



教室で会う寅毅くんはやっぱり今まで通りで、わたしもあの時の彼の表情のことを忘れかけていた時……、



「思わせぶりな態度取った癖に……最低っ」



パチンッという乾いた音の後に、泣きながら小走りに立ち去って行く女の子の姿が見えた。


(……別れ話かな)


何となく通りにくい雰囲気を残したその場所には、


(あっ……)


壁にもたれてしゃがみ込む、寅毅くんがいた。




「……これ」


スカートのポケットから取り出したハンカチを濡らし、しゃがみ込む寅毅くんに差し出した。



寅毅くんは一瞬、驚いたように目を見開いた後、


「……見てたん?」


気まずそうに苦笑いを浮かべ、ハンカチを赤くなった頬に当てた。



「偶然、見かけちゃって……ごめんね」


「いや……ありがとうな」


頬にハンカチをあてがいながら浮かべた笑顔は、力無く微笑んでいた。


それを正面から窺うわたしとの間に、沈黙が流れる。
< 59 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop