『The story of……』
「今の娘な、誘われて何回か遊びに行った娘やねん。……付き合ってって言うから断ったら、この様や」


自嘲気味に笑う寅毅くんの視線が、わたしから外される。

その表情がなんだか痛々しくて、わたしは胸がギュッと締め付けられた。



「……なんで断ったの?」


聞くべきでは無かったのかもしれない。
それでも、わたしはじっと寅毅くんの瞳を見つめ、答えを待った。


「俺な、愛都ちゃん。誰とも付き合う気無いねん」


サラッとした口調で言われた一言に、わたしは驚いたように寅毅くんを見つめた。


「遊ぶのはお互いに楽しい。けど、それ以上でも以下でも無いやろ?」


同意を求められても、素直に頷いたり出来なかった。
黙って寅毅くんの顔を見つめる。



「俺は今が楽しかったらええねん。やから、たった一人の女の子と向き合って……いろんな感情をぶつけ合うなんて、面倒で仕方ない」



「そっか……」


そう返すので精一杯だった。
あんな人懐っこい笑顔の裏で、寅毅くんはこんなことを思っていたんだ……。



「やから、それを受け入れてくれる娘とは楽しく遊べる……来る物拒まない、去る者は追わない主義やから」

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