『The story of……』
寅毅くんらしい。

そう言われたらそうなのかもしれない。
けど……わたしにはそれだけじゃないように思えて仕方ない……。



「心配してくれてありがとうな。ハンカチ、洗って返すわ」



こう言って、ハンカチを持っていた手を二~三度軽く振り、寅毅くんは校舎に向かって歩き出す。




「寅毅くんっ」


「んっ?」



呼ばれた寅毅くんは、斜めにわたしを振り返り首を傾げた。


「……無理しないでね?」


「えっ?」



唐突な一言に、寅毅くんは思った通り目を見開いて息を飲む。



「無理して笑わなくても大丈夫だよっ」



驚いたように立ち尽くす寅毅くんを見て、思わずはっとした。

自分が口走ったこと。
如何にも知ったような口を利いてしまった。
でも、言わずにはいられなかった……。


寅毅くんは驚いたようにわたしを見つめた後、


「ありがとう」


小さく呟き、力無く微笑んだ。

そこにいつものような元気は無い。


(でも、それも寅毅くんなんだ)
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