『The story of……』
慌てて雨宿りをしようと、駆け込んだお店の屋根の下。
そこは見覚えのあるお店の軒下だった。


(……ここは)


ぼんやりとショーウィンドウを見つめたわたしの視界に、ガラスに映った人影が飛び込んできた。



「……寅毅くん」


手で顔にかかる雨を避けながら駆け込んできた寅毅くんは、思いがけない先客に驚きを露わにする。


「愛都ちゃん……」


気まずげにわたしの名前を呼んだっきり、そのままどちらともなく黙り込んでしまった。


重い静寂に、ビニールの屋根に弾く雨音がやたらに軽快に聴こえる。




「ここで雨宿りするのは……二回目や」


沈黙を破ったのは、意外にも寅毅くんの方だった。



「最初のは……半年前」


いつものような軽快な喋り口調はどこへやら。
落ち着き払った声で、寅毅くんは静かに語り始めた。



「その時一緒に居た女の人。俺が初めて本気で好きになった相手」


「…………」



気がつけば寅毅くんの視線は、ショーウィンドウを見つめていた。

ガラス越しに見える沢山のペアリング。


寅毅くんは今、それをどんな気持ちで見ているんだろう……。


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