『The story of……』
「年上やのに可愛くて。でも、しっかりしたところもある魅力的な人やった」



懐かしむように和らげた表情は、どこか切なげに見える。



「その人は兄貴の彼女やった。……そうってわかってても 俺は好きになった。めっちゃ好きやった……」


「…………」



何も言わず、相槌も打たない。


彼女は作らないと言った寅毅くんが好きになった人。


わたしはただひたすら、寅毅くんの声を耳に焼き付けていった。



「覚悟決めてデートに誘った。バイトして貯めた金で指輪も買って……。本気やった」



軟派な彼の口から零れ落ちた本気の言葉。
ペアリングを用意してしまう程、彼女への気持ちは真剣だったんだ。



「一緒におる間、ずっと楽しそうに笑っとった。やから、俺は彼女も本気で俺のことを見てくれてるって思ってた」



でも、それは勘違いだった。
デートの帰り道。
今日みたいな通り雨にあい、こうして雨宿りをした。
意を決して告白すれば、


「そんなつもりじゃなかった」


こう言って断られてしまったらしい……。



「本気で想っとったんは俺だけ。……彼女は俺を傷付けんように、上辺で笑っとっただけやった」
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