『The story of……』
お見舞いのお菓子と、三日分のコピー片手に向かった小児病棟の個室。


かすかに開いたドアからは、


「イヤッ!」


美卯ちゃんの大きな声が聞こえてきた。


そっと覗き込んだ中では、ベッドの上に座った美卯ちゃんと傍らに座る四谷くんがいた。



「退院なんてしたくないっ!」


「美卯……」


ベッドの上で泣き叫ぶ美卯ちゃんに、それを静かに見つめる四谷くん。



「学校なんて行きたくない! 行かないもんっ!」



そのまま掛け布団をすっぽり被り、


「出て行ってよっ!」


四谷くんを強く拒絶した。

その布団を軽く撫でた後、


「また、来るからな」


小さく囁いた四谷くんが、イスから立ち上がり入り口に向かう。



「上総っ」


「……四谷くん」



入り口を出たところで鉢合わせたわたしに、四谷くんは一瞬驚いた後、小さくため息を零した。




「美卯……入学式してからほとんど学校行ってないんだ」


「えっ……」



学年で言えば、美卯ちゃんは小学二年生。
でも、入退院を繰り返してほとんど通えなかったせいで……もう一度一年生をしなくてはいけないらしい。
< 79 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop