『The story of……』
「愛都~助けてぇ……。アンタの力が必要なのっ」
新学期が始まって一ヶ月。
思うように新入部員が増えなかったっていう友達に、こう言って泣きつかれてしまった……。
吹奏楽部。
トランペット。
中学卒業と同時に辞めたトランペットに、こうして復帰することになった。
なんでも、トランペットを吹いていた先輩方がこの春、みんな卒業してしまい、トランペットを吹ける部員が激減してしまったらしい。
部屋の押し入れから、トランペットのハードケースを取り出す。
(久しぶりだな……トランペットに触るの)
懐かしい思い出を辿るように、手のひらで何度も何度も撫でる。
手のひらに広がる感触と共に、蘇る記憶……。
中学三年の吹奏楽コンクール。
スランプと呼べる物かはわからない。
けど、実力で後輩に抜かれた。
(……わたし、吹けるかな)
ケースに触れていた手が、自然と拳に変わった。
まだ、楽しくトランペットと向き合える自信は無いけど、
「しばらくは……自主練させて?」
友達にこう告げて、わたしは吹奏楽部への入部に頷いた。