『The story of……』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


放課後の屋上。
誰も居ないこの場所が、今日からわたしの練習場所。

コンクリートの床に座り込み、一年半ぶりにケースを開いた。

トランペットはあの日と変わらず、主を待ち受けていた。



(あの頃は、放課後になるのが楽しみで仕方なかったのに……)



マウスピースを取り出し、唇にゆっくりと当てる。


冷たくて重い感触。
金属の味。



(懐かしいな……)


そのまま何度かマウスピースで口を慣らした後、ケースからトランペットを取り出した。


大きく息を吸い込み、楽器に吹き込んでみるけど……屋上の空に響いた音は何とも情けないドの音。


予測はついていたものの……やっぱりみっともない。


構えていたトランペットを、ゆっくりと膝に下ろした。


あんなに楽しかったトランペットを持つ手が、やけに重い。


「情けない音っ」

「っ!」



(人が居たなんて、気付かなかった……)


驚いて振り向いた先には、入り口で胡座をかいて座る男の子が居た。
確か彼は……、


「五木くん」


陸上部の五木 辰琉くん。
スポーツ推薦でうちの高校に入った有名人だ。
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