『The story of……』

五木くんは、トランペットとわたしを何度か見比べて、


「おまえ……吹奏楽部だっけ?」


不思議そうに首を傾げた。
陸上部の応援で、吹奏楽部のメンバーの顔はだいたい知ってるらしい。


「違うよ。助っ人で入部したの」


「その音で? 助っ人って意味知ってるか?」


わたしの言葉で鼻で笑う五木くんに、思わずムッとした。


だから、


「五木くんこそっ。推薦で入ったからって練習しないなんて……随分余裕だね」


ついイヤミにイヤミで返してしまった。
それを聞いた五木くんの表情もぐっと渋くなって、気まずい空気が漂う。


「うっせぇな。イヤミ女」

「そっちこそっ」



一触即発のムード。
五木くんから顔を逸らしたわたしは、手早くトランペットを片付けて屋上を後にした。



(あんな言い方しなくてもいいのにっ)



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


土曜日。
学校は休みだけど、部活の練習はある。

でも、まだとても部員の中に入って音を出す気にはなれない。


だから今日は、少し離れたところにある河川敷で練習することにした。
< 88 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop