『The story of……』
五木くんは、トランペットとわたしを何度か見比べて、
「おまえ……吹奏楽部だっけ?」
不思議そうに首を傾げた。
陸上部の応援で、吹奏楽部のメンバーの顔はだいたい知ってるらしい。
「違うよ。助っ人で入部したの」
「その音で? 助っ人って意味知ってるか?」
わたしの言葉で鼻で笑う五木くんに、思わずムッとした。
だから、
「五木くんこそっ。推薦で入ったからって練習しないなんて……随分余裕だね」
ついイヤミにイヤミで返してしまった。
それを聞いた五木くんの表情もぐっと渋くなって、気まずい空気が漂う。
「うっせぇな。イヤミ女」
「そっちこそっ」
一触即発のムード。
五木くんから顔を逸らしたわたしは、手早くトランペットを片付けて屋上を後にした。
(あんな言い方しなくてもいいのにっ)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
土曜日。
学校は休みだけど、部活の練習はある。
でも、まだとても部員の中に入って音を出す気にはなれない。
だから今日は、少し離れたところにある河川敷で練習することにした。