『The story of……』
「だったら……多分わかんねぇと思うけど、俺……スランプなんだ」
テーブルから手を下ろし、五木くんはポツポツと語り始めた。
「俺、頭悪いけど、ガキの時から走るのは速くて……小六の時に駅伝の選手に選抜されてからずっと、前だけ向いて走ってきた」
体育祭で見た五木くんの走り。
まるで五木くんの為にコースがあるように、颯爽と走っていく姿……。
「五木くんらしいね」
口をついて出た言葉に、
「どういう意味だよっ」
眉をひそめて噛みつこうとする。
「深い意味は無いよ。それで?」
「……走れば走るだけ、軽くなっていく足が……二年になった頃からどんどん重くなってきた」
「…………」
(だから、あんな顔をしてたんだ……)
そしてまた、五木くんの表情は思い詰めたように険しくなってため息を漏らした。
「……五木くん」
それを見つめていたわたしに、
「なんだよっ。同情なんかすんなよっ」
苛立たしそうに吐き捨てる五木くん。
そのまま話題は他愛ない話に変わって、食事を終えたわたしたちは揃ってお店から出た。