『The story of……』
楽器屋さんに行くと言ったわたしに、
「途中まで道一緒だ」
こう言ってスポーツバッグを抱えた五木くんと、一緒に歩いていく。
楽器屋さんの近くまで来た時、
「愛都先輩っ」
「えっ?」
懐かしい声に呼ばれて、わたしは後ろを振り返った。
「やっぱり愛都先輩だ。お久しぶりですっ」
笑顔でわたしに声をかけてきたのは、吹奏楽で有名な高校の制服を着た中学時代の後輩だった。
彼女の手には、あの頃と変わらず……トランペットケースが握られている。
「あれっ? 先輩トランペット辞めたって聞いてたんですけど……また始めたんですか?」
「うん……まあ、ね」
手に持っていたトランペットケースを見る彼女の視線から逃れるように、わたしは後ろにそれを隠した。
そんなわたしに、
「また是非、愛都先輩と演奏したいです」
にっこりと笑う彼女はイヤミにしか見えなかった。
所在なさげに瞳を泳がせている自分が、ますます惨めだ……。
(嫌だ……)
トランペットケースを持っていた手に、無意識に力が入る。