『The story of……』
「ほらっ。もう行くぞっ」
「えっ、ちょっと……」
そんな情けない顔したわたしに見かねたのか、五木くんはトランペットケースを握る手を引いて、足を進めて行った。
「今のヤツ。後輩だろ? 生意気だな」
そのまま連れられてきた公園のベンチに座り、五木くんは隣でイライラを全開にさせていた。
(生意気でも仕方無いよ……)
「わたし、あの娘にね、三年のときコンクールでトランペットのソロパート取られちゃってさ」
「…………」
隣からわたしを見つめる五木くんは、ただ静かにわたしの言葉に耳を傾けていた。
「情けないでしょっ? ……それからもう、トランペット吹くの嫌になっちゃって……」
やっぱり、あの娘に会ってしまったからだろうか……。
あの頃流した涙の残りが、瞳から零れ始めた。
「ほらっ」
「……えっ?」
隣でずっと黙っていた五木くんが、差し出してくれたもの。
スポーツバッグから取り出した、タオルだった。
「使ってねぇヤツだから大丈夫だ。使えっ」