『The story of……』

わたしが受け取るより先に五木くんは、それをわたしの顔に押し付けた。


「……ありがとうっ」



タオルで押さえたまま呟いたわたしに、

「……おぅっ」


五木くんの小さな返事が聞こえた。





五木くんの貸してくれたタオルのおかげで、涙はすぐに止まった。
ゴシゴシと目と鼻を拭くわたしに、


「…………」


五木くんは落ち着かなげにこちらを見つめている。



「どうかしたの?」

「いや……その、臭ったりしねぇ? 一緒にバッグに放り込んでたから……」



心配そうに呟いた五木くんに、



「ぷっ、あははっ」


思わず吹き出してしまった……。
そんなわたしの反応が気に入らなかったのか、


「わっ、笑うな! 人が心配して……」


怒り出したかと思えば、とっさに自分の口を塞いだ。


「心配……?」


「…………」



思わず問い返したわたしに、五木くんは頬を赤らめて目を逸らした。



「ありがとう」

「……うっせぇよ」
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