『The story of……』
「なぁ」
「なに?」
帰りの電車の中。
向かいに立っていた五木くんは、わたしの顔を見て口ごもる。
「……交換しねぇ? 俺のと」
こう言って五木くんはお守りの入った袋を、躊躇いがちに差し出した。
「なんで? 傷か汚れでもあった?」
訝しんで尋ねるわたしに、
「ちげぇよ! そうじゃなくて……なんとなく」
「…………」
五木くんは気まずそうに頭を掻いた。
(どうしたんだろ……)
「嫌なら良い」
「良いよっ。はい」
理由はわからないけど、五木くんはわたしの差し出したお守りを受け取ると……嬉しそうに笑った。
(嬉しそうだから、良いかっ)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
陸上部大会当日。
競技場の観客席にずらりと並んだ吹奏楽部の中に、わたしは立っていた。
……もちろんトランペットを持って。
(あっ……)
スタートラインに並んだ辰琉が目に飛び込んだ。
こちらを見上げた辰琉と、視線が重なる。
どちらともなく笑い合ったわたしたちは、ぎゅっとお守りを握った。