秘密の恋~絶対に知られちゃいけない恋だったのに~
「おい!崎本!取り込み中悪いけどな。俺も待ってんだよ。はやくしろよ。」

崎本が振りむいた。

「ちっ。お前かよ。」

「瀧さん。何か御用ですか?」

地味子が助かったとばかりに、崎本を無視し、俺のほうをちらっと見た。が、すぐに顔はPCの画面の方を見る。

「あ、及川《おいかわ》さん。仮払いよろしく。月曜からシンガポール。」

「はい。お待ちください。」

崎本は仕方なく去っていった。

「瀧さん。どうぞ。また領収書お願いしますね。」

「サンキュ。たぶん3日間くらいだから、木曜か金曜には持ってこれると思うよ。」

「はい。わかりました。」

そう言うと、もう目を落としてPCを操作しだす。

及川華《おいかわはな》。

華やかな名前とは裏腹に地味で目立たないこの女は、白のワイシャツかブラウスに真っ黒かネイビーのシンプルな長めのスカートをはき、黒ぶち眼鏡をかけてマスクをし、黒く長い髪を後ろでひっつめている。
表情はない。常に下を向き、笑っている顔を見たことはない。人と必要以上にかかわるのを避けているような印象だ。

崎本の奴こんな女の何がいいんだろ?だいたいこの女何を楽しみに生きてんだよ。

しかし・・・
仕事はできる。

何をやらしてもミスがなく、迅速にこなすし、人に対する気遣いもある。

不思議な女だ・・・
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