これがキスだと知らなかった。
昔から仕事人間で、親が家に不在が多かった
俺たちは幼い頃からずっと一緒だった。
泣き虫な仁菜はなにかあるといつも
兄貴か俺のところに泣きながらきて、
引っ込み思案だった俺とは真逆な兄貴は、
どんな時でも仁菜をいじめた奴を叱りに行ったりして
それを見ながら俺は仁菜の側にいてあげる事しかできなかった。
そんな兄貴が羨ましくて、こんな自分が嫌いだった。
俺が小学3年の頃、いつも仁菜が帰ってくる
時間に帰って来ない日があった。
兄貴は小5で、進学塾に通っていて
その日も塾の日で帰りが遅かった。
夕方が過ぎて日が落ちかけた頃、
遂にどうしようもなくなった俺は仁菜を探しに行った。
いつも通る通学路、
河川敷や公園。
ありとあらゆるところを探してもいなくて
外は既に真っ暗で、11月の夜は寒い。
心配で心配でたまらなかった。
俺が仁奈と一緒に帰っていれば
俺がもっと気をつけていれば
そう思うと同時に焦りが広がって、
とにかく探し回るしかなかった。
どれくらいの時間探してたのか分からない。
そうしている間にポツポツと雨が降ってきた。
もう自分の力じゃ無理なんだと悟った。
やりきれない気持ちで普段通らない道を通ったとき、
雨が急に土砂降りになって、急いで駆け込んだのは
街の小さな教会だった。
とっさのことで自分がどこに来たのか
わからなかったけど、大きな十字架が掲げられた
その場所は、何となくどうゆう場所なのかを察した。
ステンドガラスが張りつめられた高い天井に響く
自分の足音と雨音。
何もかも失った気持ちで椅子に座ると、
誰かが何かをすする音が聞こえた。