これがキスだと知らなかった。






大きな十字架の近くから聞こえるその音は、
きっと何者かがいるであろう音だった。

当時小学生だった俺はそれすらも怖くて、
恐る恐る前の方に近づいた。



「だれかいるの?」



そう言うと、その音は止まる。

少ししてからひょこっと壇上の台の下から
顔みたいなのが出てくるのが見えた











「はる、にぃ?」







それは聞き覚えのある声で、いつも俺を呼ぶ声。







「にな!!」




急いで駆け寄ると暗くてあまり見えなかったけど、
泣き腫らした顔の仁菜が居た。



仁菜は俺の顔を見ると飛びついてきて、また泣き出した。




「っ..っはる..にぃーー!!」





何者かがいるという怖さと、
仁菜が見つかった安心感で、その場に崩れこむ。




「にな、よかった...
どうしてこんなとこにいるの?」




仁菜は鼻をすすりながら答える



「あのね、ここね、きょうかい、っていうんだよ!
ここでけっこんしきあげるの!」




唖然としたのを覚えてる。

それは好きな人同士が夫婦になる時に挙げる儀式





「だ、だれとけっこんしきするの?」




「おうじさま!」




「おうじさまって?」



「になのこと、みつけてくれたから、
はるにぃがおうじさま!」




あの時は幼かった。

仁菜がよく読んでた絵本に出てくる王子様。

そうゆうのに憧れる歳だったんだろう。

王子様とか、結婚式とか、
意味すら知らなかったんだと思う。





「ぼくとけっこんするの?」


「うん!はるにぃとけっこんする!」


「ぼくがこなかったら、だれとけっこんするの?」



そう言うと仁菜は少し考えこんだあと、




「んー、やっぱりはるにぃがいいな!
にな、はるにぃとけっこんする!」




そう言った仁菜の言葉がすごく嬉しかった。


この子を今日みたいに探さないで済むように、
失くさないように、
守れる様に、ずっと側にいたいと思った。




__ ックシュン‼︎!




「はるにぃ、くしゃみしてるよ?だいじょうぶ?」


「だいじょうぶだよ、にな、かえろ?」




俺に抱きついてきてた仁菜の手を取って立ち上がろうとした時だった。





ステンドガラスから差し込む強い光と大きな音。




「きゃああ!」



仁菜は耳を塞いでしゃがみ込んだ



大きな雷の音だった。


ゴロゴロと音が響く教会


耳を塞いでうずくまる仁菜に
覆いかぶさるかのように抱きついた。




「にな、だいじょうぶだよ。
こっちむいて?」


「はるにぃ、かみなり....やだよぉ..」



また泣き出しそうになる仁菜。


胸の中でうずくまる身体は微かに震えてた。







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